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最高裁判所第三小法廷 平成3年(行ツ)205号 判決 1992年1月21日

東京都品川区西五反田一丁目二四番四号

上告人

タキゲン製造株式会社

右代表者代表取締役

瀧源秀昭

右訴訟代理人弁護士

渡辺秀雄

同 弁理士

増田守

東京都大田区山王四丁目一二番二号

被上告人

有限会社 三眞

右代表者代表取締役

眞壁英雄

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行ケ)第二二六号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年七月一〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡辺秀雄、同増田守の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)

(平成三年(行ツ)第二〇五号 上告人 タキゲン製造株式会社)

上告代理人渡辺秀雄、同増田守の上告理由

第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令違背があるから、破棄を免れないものである。

一、 原判決は、「本件審決は……両意匠の基本的構成態様が一致することについて、『この基本的構成態様は周辺意匠(乙第七号証乃至乙第九号証)にも認められる』と認定している……が……本件審決がこの基本的構成態様が認められるとして引用した……乙第七号証……乙第八号証……乙第九号証は……本件意匠が出願された昭和四二年六月七日以降にいずれも出願された意匠であることが認められ本件意匠が出願された当時、基本的構成態様が周辺意匠として存在していたとは認められない。したがって、本件審決が『この基本的構成態様は周辺意匠(乙第七号証乃至乙第九号証)にも認めらる』と認定判断したことは誤りと云わなければならない」旨判示した。

二、 確かに、本件審決が周辺意匠として引用した乙第七号証乃至乙第九号証はいずれも本件意匠の出願後に出願されたものであることは、原判決の指摘するとおりである。

然し乍ら、原裁判所としては本件審決が引用した乙第七号証乃至乙第九号証にとどまることなく、上告人が周辺意匠として提出している乙第一号証乃至乙第四号証について、それが周辺意匠として認められるか否かについて精査、審究すべきである。

然るに、原判決はこれを怠り、漫然、「乙第一号証ないし第四号証……の各公報に記載されたものの前面の意匠の態様は、前面板あるいは扉の開口部内に上面を面一ないしはほぼ面一とする回動ハンドルが開口部いっぱいに埋め込まれたものではあるが、いずれも押しボタンがないことが認められ、乙第一号証ないし第四号証の各意匠は、回動ハンドルと押しボタンとを組み合わせた基本的構成態様を有する本件意匠と引用意匠の周辺意匠とは認められない」と判示した。

然し乍ら、乙第四号証(昭和三九年八月二二日出願され、同四二年一月一四日設定登録されている)の公報には、回動ハンドルと粗み合わされた押しボタンが、明白に描かれている。

右押しボタンを右公報にもとづいて指摘すれば、正面図と背面図に描かれている、前面板の縦長長方形状の開口部の上端部分に回動ハンドルに隣接して埋め込まれた縦長の長方形板である。より具体的に指摘すれば、この押しボタンは、背面の左右二個の脚部が函体の左右側壁に細いピン(左側図面と右側図面において最上端に小円で示されている)で枢着されたレバー作動式のものであり、該ピンに嵌めたコイルバネで復帰付勢され、下端部の前面には指先の滑り止め用筋線を横長に三本設けたものである。

このように、乙第四号証の公報に回動ハンドルと組み合わされた押しボタンが描かれていることは何人の目にも明らかで疑う余地のないところである。

然るに、原判決がこれを看過し、乙第四号証の意匠の態様には押しボタンが含まれていないから周辺意匠とは認められるとするのは、図面読解に関する経験則に反するものであり、これは判決に影響を及ぼすことが明ちかな法令違背というべきである。

三、 「略縦長長方形の前面板の周囲に傾斜面を巡らせて、その上面に周囲に余白部を設けて縦長長方形状の開口部を設けて、この開口部の上端部分以外の主体部分内に上面を面一とする回動ハンドルを当該主体部分いっぱいに埋め込み、残された開口部の上端部分に押しボタンを現し、前面板の背面に前面板より一回り小さい略直方体の函体を設けた」意匠の態様が、乙第四号証の公報に記載されでいるものと経験則に従って正しく読解されていたならば、「前面板の背面に設けた略直方体の函体上に係止板を設けた」点が乙第一号証、乙第二号証、乙第三号証の各公報に記載されている事実、及び「ハンドルの握り部の上方部分に円柱形押しボタンを設けた自動車用ハンドル」が乙第一一号証の公報に記載されている事実と合わせて参酌すると、引用意匠の基本的構成態様である、「略縦長長方形の前面坂の周囲に傾斜面を巡らせ、その上面やや下方よりに周囲に余白部を設けて縦長長方形状の開口部を設けて、この開口部内に上面を面一とする回動ハンドルを開口部いっぱいに埋め込み、上方の余白部中央に押しボタンを現し、前面板の背面には、前面板より一回り小さい略直方体の函体を設けて、この函体上に係止板を設けた」点は、意匠登録要件としての独創性がないものと認めちれるものであり、それにもかかわらず、引用意匠が登録されたのは、長方形の前面板や直方体の函体、縦長長方形の開口部、長方形の回動ハンドルから得られる角張った基調イメージに対して、押しボタンを円柱形とすることによって、異質で違和感のある丸みのイメージを部分的に付加し、意匠全体としてのモチーフから統一性と整合性を敢えて欠如させた破調性の点にあるものと認める外はない。

前面板、函体、押しボタン及び係止板という比較的少ない部分の集合体であるこの種のハンドルでは、押しボタンの態様は重要な意匠構成要素の一つであり、本件意匠では、押しボタンを略扁平四角錐台形とすることによって、略横長長方形とした前面板、略直方体の函体、略横長長方形状の開口部、長方形状の回動ハンドルとの形状上の整合性、同調性が得られ、意匠全体のモチーフが角張ったものに統一されているのであり、本件意匠と引用意匠は前記した同調性と破調性の点において顕著に相違するため(この他、係止板の形状、函体の蓋の有無にも顕著な差異がある)、両者は互いに非類似のものとして登録されたものであり、乙第四号証について図面読解上の経験則違反がなければ、本件審決を取り消すべき旨の本件判決はなされなかった筈のものである。

以上のとおり、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令違背があるから破棄を免れないものである。

以上

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